プログラム
クライスラー:プレリュードとアレグロ(6:00)
ヴァイオリン界では「ミシミシ」でお馴染みのこちらの曲ですが、初めの10秒ほどはなんと、ミとシの音しか弾いておりません。そんなロックな曲を書いたのは、ヴァイオリニストでもあり作曲家のクライスラー(1875〜1962)という人です。
3歳でヴァイオリンを始め、7歳でウィーン音楽院に入学、そこでブルックナーから作曲も学び、10歳で首席で卒業。その後はパリ高等音楽院にも入学し、12歳でまたしても首席で卒業したそうだ。
この時点で、今だったらYouTubeに取り上げられていそうな経歴ですね。
そんな「神童」とも呼ばれた彼でも、ウィーンフィルのオーディションでは「演奏が荒い」などの理由で落とされた事もあったそう。
そんな事では挫けないクライスラーは、そのあたりから自分のレパートリーを増やすためにも作曲を始めました。
その結果、彼の書いたたくさんの曲は今もなおヴァイオリニストから愛される、ヴァイオリニストが1番演奏する機会の多い作曲家ではないかなと思います。現代でいう葉加瀬太郎さんのような、元祖ヴァイオリンプレイヤーライター、パイオニアです。
シューベルト:ヴァイオリンとピアノのためのソナタ イ長調D.574(20:00)
「歌曲の王」シューベルトが20歳(1817年)の時に書いた作品。
彼が19歳の時点で、すでに3曲のヴァイオリンソナタを作曲しているのですが、一方が主旋律ならば他方が伴奏に回るという場面が多かったのに対し、この作品ではヴァイオリンとピアノが対等に絡み合うことから、「二重奏曲」、もしくは「グラン・デュオ」とも呼ばれる。ヴァイオリンが主役!ピアノは伴奏!といった力関係を変えようという作者の野心が現れている。
シューベルトならではのメロディの美しさ、そしてシューベルトの特徴とも言える転調(キーが変わる)は、等身大の自分を彩り、前向きな気持ちにさせてくれる気がします。
ヴァイオリンソナタはどれも3〜4つの楽章で構成されていることがほとんどです。
この作品は全部で4楽章あり、それぞれの楽章に一言ずつわたしのイメージを添えてみました。
それではシューベルトとの響きをお楽しみください。
Ⅰ.Allegro moderato 穏やかな歩み
Ⅱ.Scherzo(Presto) 少しいたずらに
Ⅲ.Andantino 穏やかで叙情的
Ⅳ.Allegro vivace 華やかなフィナーレ
ドヴォルザーク:我が母の教え給いし歌(2:50)
ドヴォルザーク(1841〜1904)が1880作曲した全7曲からなる『ジプシー歌曲集』*から、おそらく最も有名なのが《第4曲》のこちらの曲。
〜母が私に歌ってくれた時、母は涙を浮かべていた
今は私が涙を浮かべながら子どもへ歌う〜
脈々と続く深い愛情が感じられる歌詞が描かれています。
そしてこの曲をヴァイオリンVer.に編曲したのが先述したクライスラーなのです。
少し専門的ですが、この曲はピアノは6/8拍子、ヴァイオリンは2/4拍子で書かれています(拍子がずれている)。
これが、お母さんが子どもの背中をトントンをしている光景を表しているような気がして、私もそんな温もりを思い出しながら演奏しています。
*オリジナルの題名をそのまま記載しています。
サラサーテ:カルメン幻想曲(10:00)
サラサーテ(1844〜1904)は、スペインの生んだ大人気名ヴァイオリニストで、多くの作曲家が彼のために作品を書いたり、また彼自身も自作自演用のヴァイオリン曲を多数作曲していた。
(聴いたらあっ!となる『ツィゴイネルワイゼン』も彼の作品)
カルメン幻想曲も、後述する『ファウスト』と同じく『カルメン』と言うオペラが元ネタとなっており、オペラの持つスペイン的情緒とヴァイオリンの超絶的な名技性を結び付けている。
オペラは、情熱的で自由奔放な魔性の女カルメンに、真面目な軍人ドン・ホセが人生を狂わされる!?はたして、運命やいかに!!
といったあらすじです。
愛を探し求め愛に生きたカルメンの心情を、見事に表したこの作品をお楽しみください。
休憩(15分)
武満徹:めぐり逢い
[佐藤昌弘/編曲](5:50)
日本を代表する作曲家で「世界のタケミツ」こと、武満徹(1930-1996)は、現代音楽の分野のみならず、映画音楽の分野でも活躍しました。この《めぐり逢い》は、1968(昭和43)年公開の同名映画の主題歌として武満が作曲したのです。詩は、シンガーソングライターの荒木一郎が書き、主題歌も荒木が歌っています。この主題歌は、石原裕次郎の映画の主題歌にも通じるような——現に武満は生前、裕次郎の曲をカラオケで好んで歌っていたそうです——いわゆる「昭和歌謡」のスタイルで書かれていますが、メロディの魅力は類を見ません。そのことから、この歌はさまざまなミュージシャンによって、さまざまなスタイルにアレンジ、カバーされて今日まで歌い継がれています。今回、松本シオンさんから委嘱を受けて、ヴァイオリンとピアノの二重奏のために編曲いたしました。編曲にあたっては、原曲のメロディの魅力を生かすことは言うまでもないことですが、何よりもヴァイオリンならではの《めぐり逢い》にすべく鋭意工夫しました。本編曲が松本さんと私の初演を機に、今後も演奏されることを望みます。(佐藤昌弘)
イザイ:無伴奏ヴァイオリンソナタ 第3番『バラード』(7:30)
ベルギーの伝説的ヴァイオリニストであり作曲家でもあるイザイ(1858〜1931)の作品。
彼の「無伴奏ヴァイオリンソナタ」シリーズは全6曲あるのですが、イザイはこの全6曲を、それぞれ当時の名ヴァイオリニストたちに捧げました。第3番を贈られたのは、ルーマニアの天才ジョルジュ・エネスクです。
題名にもなっている『バラード』は「物語詩」という意味があります。
語り部のような情緒と、ヴァイオリンの限界に挑むような技巧が融合した、非常にドラマチックな作品です。
バッハの無伴奏作品への敬意を感じさせつつも、20世紀初頭の新しい響きを取り入れた、まさに「ヴァイオリニストによる、ヴァイオリニストのための傑作です。
マスネ:タイスの瞑想曲(5:15)
フランスの作曲家、マスネ(1842〜1912)が作曲したオペラ『タイス』の第2幕第1場と第2場の間の間奏曲。なので本来はオーケストラとヴァイオリンで演奏されるのですが、ピアノとヴァイオリンの編成で、ヴァイオリンの小品曲として演奏される事がほとんどとなりました。
オーケストラバージョンもとても美しいので、是非興味ある方は聴いてみてください!
心地よくてとても眠くなります。
ヴィエニャフスキ:グノーの『ファウスト』による華麗なる幻想曲 Op.20(17:10)
ドイツの詩人、ゲーテが20代から晩年に至るまで、約60年の歳月を費やして完成させた全2部構成の戯曲です『ファウスト』はドイツ文学における最高傑作の一つとされ、「人間は絶え間なく努力する限り、救済される」という一貫したテーマが流れています。
そんな彼の作品に影響を受けた作曲家も多く、グノーはオペラに、そして大ヴァイオリニストであり作曲家でもあるヴィエニャフスキは、そのオペラを元にヴァイオリン曲を作曲した。
とーっても簡単にあらすじを言うと、
悪魔メフィストフェレスと契約して(魂を売った)若返った老博士ファウストが、純真な女性マルガレーテと恋に落ち、翻弄される物語です。
そして誰も救われずに終わってしまいます。
若さを手に入れた代わりに、大切なものを失っていく。この曲の華やかなメロディの裏には、そんな取り返しのつかない切なさも隠れているようです。
「ヴァイオリンの詩人」とも言われたヴィエニャフスキが、ヴァイオリンの魅力を最大限に惹き出したエンターテイメント楽曲です!
ありがとうございました!